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放浪記
その無軌道な足跡の数々


2000.05.06 大社線跡探索

大社線は出雲今市(現在は出雲市)から大社の7.5kmを結んでいた路線。開業は明治45年。当時、山陰本線は京都から出雲市までしか出来ておらず、大社線は山陰本線の延長のような形で敷設された。その証拠に、その後に開業した山陰本線は大社線との合流地点で大きく左に曲がる。山陰本線の延長上には大社線跡の遊歩道が伸びている。そんな由緒ある大社線であったが、マイカーやバス、果ては自転車との競合により、営業悪化。平成2年に廃止され、78年の歴史を終えている。

この立派な建物がかつての大社線の終着駅、大社駅である。すでに廃止されて10年になんとするのだが、町が整備をしており、どうみても現役の駅にしか見えない。駅の内部にも当時のポスターや時刻表、料金表が残っている。当時を偲ぶどころか、俄かには廃駅であることが信じがたいほどきれいに保存されている。待合室の片隅には、雑記帳がおいてあって、訪れた人々の思いがつづられている。出雲大社のついでに訪れる人が多いようで、コメントにテツのにおいがなくてなんだか和む。しかし、廃駅がここまで手厚く保護されているのは全国的にも珍しい。

【現役さながらの旧大社駅】


無人の改札を抜けて無人の駅構内を進む。雑草に埋もれたレールを踏みしめて2番線のホームに進む。2面あるホームには上屋も残り、駅名板、名所案内の看板などほとんどの備品が廃止の時のままの姿で残っている。ホームの植え込みもちゃんと手入れされている。かつては東京からの列車を迎え入れたこともあるホームは、古い駅に相応しく長い。廃駅にいる感じがまったくしない。無人駅で列車待ちをしている気分だ。これで列車がやってこないのが冗談のようである。ホーム外れまで行くと、線路は途切れ、その先は道路に作り直されている。これを見て、ようやくここが廃駅であるのを納得せざるを得なかったが。

そのまま、ホーム終端から路盤を転用した道路へと歩き出す。大社駅を出ると、最近できたばかりのこの舗装道路が2kmほど続く。近くに旧来からの国道が通っているため、この道路を走る車は少ない。たまにある民家はこの新しい道路を無視した方向に道を伸ばしている。道中、何箇所かに小さい広場があってベンチがしつらえてある。ベンチにはレールが埋め込まれ、この道路がかつては線路であったことを示している。やがて、舗装道路はT字路となって左右に分かれ、つきあたりのガードレールの向こうに草むらが生い茂る築堤が続いている。舗装道路に転用されたのはここまでで、ここからは全く整備されていない荒れた砂利道になる。

少々住宅が建てこんできた。砂利道は周りから一段高くなった場所に伸びており、道の両脇には住宅や畑が広がっている。道端には放置された信号機器箱が錆付き朽ちている。線路跡らしく砂利は赤錆に茶色に染まっている。路盤あとの砂利道は大社駅からほとんど真っ直ぐに続く。やがて、砂利道がアスファルトの遊歩道に変わる。このあたりから先は出雲市により廃線跡は定番のサイクリングロードに整備されているようだ。もっとも実質は近くの小中学校の通学路とのようだが。ちょうど下校時間帯にぶつかってしまい、学生服セーラー服ランドセルの列にまぎれたワシの浮いていたこと。

やがて、片面のホームの跡が現れる。荒茅駅跡である。「鉄道廃線跡を歩く」の大社線の項によると、最近までホームに待合室と駅名板が残っていたらしいが、すでに取り壊されていた。

【荒茅駅跡のホーム】


さらに進むと、内藤川に突き当たる。大社線は川を鉄橋で越えていたらしいが、すでに鉄橋や橋脚は撤去されていた。対岸に橋台の後が藪の中にかすかに覗ける。素直に自動車道までもどり川を越える。川を越えた路盤はそこに建つ中学校をぐるりを囲むようにして、向きを変える。下校時間帯であたりを中学生が大量に歩いている。中学校を廻り込んで川べりから探索を再開したかったが、中学校の敷地をデジカメ片手にうろつくのは誤解を招きそうだったので、あきらめて少々先から廃線に戻る。ここから出雲市駅までは完全に直線である。あいかわらず道端には標識や機械箱が放置されている。さらに1kmほど進むと、今度は出雲高松駅の跡が現れる。これも「鉄道廃線跡を歩く」の表記とは裏腹に待合室などは撤去されており、草生したホームがあるのみであった。

国道9号線の跨線橋が見える。跨いでいるのは大社線跡の遊歩道である。ここを過ぎるとまもなく右手に山陰本線が見えてくる。合流地点の踏切の先には山陰本線の脇に細長い空き地が伸びている。これが大社線の名残である。出雲市駅の高架化にあわせてこのあたりも整備の手が入りつつあり、工事車両がそこかしこに見える。いずれこの空き地も消え去るのだろう。

【国道9号線をアンダークロスする】

【山陰本線との合流地点 右側の空き地が大社線跡】


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