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放浪記
その無軌道な足跡の数々


1999.09.05 わたらせ渓谷鐵道

スタンプを追い求め、桐生へやってきた。桐生からは渡良瀬川沿いにわたらせ渓谷鐵道が山に分け入っている。ここまできたついでに乗ってみることにする。

わたらせ渓谷鐵道。旧名、国鉄足尾線。足尾銅山のために作られ、そして足尾銅山の凋落に併せて廃止された路線であった。大正3年全通。営業キロ46km。多くの銅がSLに牽引されて東京に向かったと云う。しかし、産業構造の変化、鉱石の枯渇、そして鉱毒問題により、昭和48年に足尾銅山が閉山。それに伴い鉄道の営業も悪化。関東地方でわずか3路線しかなかった特定地方交通線に指定され、平成元年3月に廃止、第三セクタ化されている。観光路線への転身を図っているが、経営は芳しくないとも聞く。ちなみにわたらせ渓谷線の路線長は44.1km。国鉄足尾線との差分1.9kmは終点、間藤から足尾本山の貨物線が現在休止されているためである。

高架の桐生駅、1番線から列車は出る。出発すると、列車はしばらくは両毛線の上を走る。元々信号所で最近駅に格上げされた下新田駅で両毛線の高架から外れ、北を目指す。しばらくは東武鉄道桐生線と並走したり上毛電鉄と交差したりとローカルな雰囲気は少ない。それもわたらせ渓谷鐵道の社屋のある大間々までのこと。やがて、車窓から民家が消え、鬱蒼とした木々があらわれる。いつしか、線路の東側は遥か下に渓谷が覗け、西側は覆い被さるような険しい山がそそり立つ。渓谷の対岸は深い山々。絶景である。山岳路線にありがちな感想だが、よくぞまあこんなとこ線路を通したものだ。斜面を線路とそれに並んで走る道路とが場所を争うようにもつれながら山奥へと延びている。

ともに難読駅である神戸と沢入の間にはやたら長いトンネルがある。5500m。のんびり走るディーゼルは通過に10分以上かかっている。このトンネルは昭和48年に路線変更された区間。それまでの区間は草木ダムに水没したと云う。このダムは関東圏の水源として有名なのだそうだ。トンネルに入る前にちらりと見えたダムはほとんど水が無かったが、いいのか。

神戸駅の片隅に車両を改造したレストランがあった。ところで、この路線は第三セクタのローカル線の割に結構頻繁に列車が走っており、間藤までのしばしば交換待ちをしていた。神戸駅もその一つ。10分ほど閑だったので、色々眺めている。レストラン車両の形式は塗りつぶされていてはっきりしないが、おそらく485系。よくみると平成3年頃まで現役だったようだ。車体のベージュはすっかり褪色し、見る影もないが。

切符を買ったときの乗務員のハナシだと、終点付近で一番にぎやかな場所は終点から2つ手前の通洞だという。そこそこ観光名所もあるとかなんとか。親切にスマヌが、こっちは乗るために乗っているのでたとえ無人駅でも終点まで行きます(終点はホントに無人駅だったが)。群馬から栃木に県境を超え、足尾の町に入ると、進行方向左手に鉱山特有の斜面に張り付いたバラックような普請の宿舎や工場の跡が見えてくる。風雨に汚れ、窓ガラスは抜け落ち、本当に廃虚である。反対側は人家も見え、真新しい鉄筋の銅山の記念館らしきものも見える。通洞では乗客の多くが降りた。

終点、間藤。間藤駅は小奇麗で瀟洒な駅舎。無人駅であるが、近所の老人会の詰め所として使われているのか、陶芸作業場があったりと生活臭が感じられる。乗務員の云った通り付近にめぼしい観光施設もないようである。駅前の観光案内は山歩きのモデルルートがいくつか書いてあるのみといった感じ。なのだが、なぜか同じ列車で10人以上は終点までやってきている。然して当てがあったようでもなく、所在なくわずかな駅前の広場をたむろしている。私と同じく、今乗ってきた列車の折り返しで帰るのだろうか。さて、末端駅に来たのでいつもの通り線路の終端を拝むとしよう。・・・あれ、列車止めがない。草が生い茂っていて分かり難いが、線路は終点で折り返しをまつ列車の前方に延々と延びている。途中でゆるやかにまがり切り通しに隠れている。そう、この時点ではまだ間藤の先の休止区間のことを知らなかったのである。怪訝に思いながらも、とりあえず、線路沿いにしばらく歩いてみる。民家に突き当たり、仕方なく路盤に登る。廃線跡か、とも思ったが線路は完全に現役状態で、すぐにでも営業できるような感じである。雑草をかき分け、切り通しを抜けると線路は道路と交差している。踏み切りはあるものの、もちろん警報機は動いてはおらず、勝手知ったる地元の車は一時停止すること無く踏み切りを走り抜けていく。道路を横切った線路は鉄橋で渡良瀬川を超えて対岸に延びている。危ないとは思いつつ、好奇心には勝てず、鉄橋を徒歩で超える。平行してかかってある歩道は閉鎖されているようだ。川の対岸に渡った線路は川の曲がりにそって尚も延びている。やがてぽっかりと口を開けたトンネルに辿り着く。覗き込むが、トンネルの反対側が見えない。つまりトンネル内部でカーブしていることであり、灯り無しでの突入は無茶というものだ。今後の予定から折り返しの列車を逃す訳には行かなかったので、無念にもここで時間切れである。

【わたらせ渓谷線 休止区間 渡良瀬川を鉄橋で超える】


【わたらせ渓谷線 休止区間 トンネルへ】


その後の調べで、間藤から先の線路は元々貨物線であり、旅客営業をしたことがないこと。バブル時にこの休止中の路線を観光用に開業する予定もあったという。などが判明した。厳密には廃線ではないことになる。今度は間藤でレンタサイクルでも借りて、足尾線の終点であった足尾本山まで足を伸ばしてみよう。機会があれば。

難読の答え
※ 神戸 : ごうど
※ 沢入 : そうり

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