その日のワシ 【私記Topへ】

2001.04.08 華燭の儀



11:00に赤坂の全日空ホテルに来いと云われていた。

8:00。起床。今晩からカミさんがこの部屋に住み付くので、事前に少しは掃除しようと思ったが、面倒なので略。手廻らん。夕べも遅かったし。

9:30。足袋と親戚の子供へのプレゼントおもちゃを抱えて出発。春らしいのどかな日差しの中、桜が舞い散るいつもの通勤路を駅に急ぐ。身支度とか、ドタバタしていたら、11:00までにホテルに辿りつけるかがあやしくなってしまった。西所沢〜池袋〜後楽園〜溜池山王と乗り継ぐ予定を、i-駅探を駆使して最適化して西所沢〜所沢〜高田馬場〜飯田橋〜溜池山王に変更。所要時間を6分短縮して、溜池山王に10:54着。しかし、改札からホテルまではさらに地下道が600mある。ギリギリスーツ。走る。今日は大安。あたりは同じホテルに向かう留袖と礼服がやたらいる。ホテル到着寸前、弟から携帯に着信。どうも親族で一番最後にホテルに到着するのはワシのようだ。さすがワシ。

11:02。親兄弟親戚に全然顔も合わせずに、とりあえずホテルの衣装室へ直行する。6畳ばかりの衣装部屋の壁には本日の進行表が所狭しと貼られている。当然ワシの名前もある。まだ息が上がった状態で衣装室のおばちゃんと本日はおめでとう、ありがとうとか定番の挨拶を済ますと、今日は押してますからとか云われていきなり着替え開始。あっという間にパンツ一枚に引っぺがされる。モーニングを着ようとしたところで、衣装室の入り口から、なんちゃら様色直しでーす、とか声が掛かって紋付のどこぞの新郎がやってきた。なんか、すでに一巡目の披露宴が半ば終わっているらしい。狭い部屋なので、邪険にも半裸のワシは隅に追いやられてしまう。ひどい。おばちゃん2人が今きた新郎に襲い掛かりあっという間に紋付からモーニングに着替え終了。10分足らずで着替えを済ました新郎は介添えに連れられてとっとと出ていった。なんとも男は簡単なものだ。ここで弟から再び電話。親父の衣装はどこで借りるのだ、とかなんとか。適当に誘導して、ついでに衣装室に呼びつけて受付の段取りを伝える。場所が空いたので、ようやく着替えを再開し、やはり10分足らずで着替え終了。パンツ以外はすべて借り物で、なんとも落ち着かない。ここで、本日世話になる介添えの人を紹介される。今日一日この人について廻る。というのも、今日の段取りの全体像は全く不明。披露宴の進行は自分たちで決めたが、自分が結婚式とか披露宴でどのように立ち振る舞うのかは全然聞かされていないのである。

カミさんの着付けが終わるまでまだ時間があるから、そこらでブラブラしてても良い、とのことなので、自分の親戚への挨拶まわりをする。披露宴で花束贈呈をやってもらう予定の従妹の息子が早くも大暴れしている。大丈夫か。しばらく従妹のチビ助どもの相手をする。しばらく見ないうちにどいつもデカくなりおってからに。去年の夏、日焼けで痛い痛い騒ぐワシを這い登ってきやがった一番小さい従妹の子が、健気にも乾杯と万歳を憶えてきてくれたらしい。披露宴でおもちゃやるから待ってな。

とかやっていると、某氏やらナイスガイやらが覗きにやってきた。某氏に乾杯を押しつけたが、エラく緊張しとるようで、こりゃスマぬことをしたが今更どうにもならん。会社のいつもの面子とか図書館のいつもの面子とかも顔を出してくるが、こちらは浮き足立っていて、目の前で声を掛けられてようやく気がつく始末。ううう。

11:30。披露宴会場で司会者と最後の打ち合わせ。読み上げる電報を選別したり進行の最終確認をしたり。時間があまった場合の生贄(事前アポなし挨拶依頼)の選出、経歴確認、レーザーの演出確認等々。準備で何度が目にした会場だが、思ったり様になるものだ。

ようやくカミさんの準備が出来たらしい。本日、初対面。なんか、ヒールやらドレスやらティアラやらでいつもよりずいぶんとデカい。しばらく2人で写真撮影されまくる。写真が終わると息付く間もなく今度は結婚式の予行演習に連れていかれる。

12:15。チャペルへ。まさかのときのスペイン宗教裁判的な格好をした聖歌隊がすでに準備している。パトリックと云うやたら縁起のよい名前の神父に式の段取りを教わる。入場の仕方に歩き方、指輪の交換の段取り、結婚証明書の記入、宣誓、ベールの引っぺがし方と誓いのキスなどなど云々かんぬんと意外と憶えることが多い。予行演習を一通り終えて二人して入り口まで退場の練習をしたところで、じゃ本番です、との声。え、と二人して固まるがそんなことお構いなしに2人とも所定の場所へ連行。心構えの閑、全くなし。動揺するワシにはお構いなしに、後ろがどんどん賑やかになってきて、参列者がゾロゾロとやってきた、ようである。結婚式の始めから最後までほとんど前方を注視していなけりゃならんので、後ろがどうなっているのかサッパリ分からんかった。とにかく、始まっちまったよ。

実は祭壇では神父から逐一次の行動の指示が小声で出されてたので、まあそんなに派手な間違いは無かったような気もするが、あまり冷静ではなかったのでよく分からん。二人して指輪が途中で引っかかってみたり、ベールを引っぺがす手順を間違えてこっそり聖歌隊にベールを直されていたりするが。しっかりなんば歩きもしてしまったし。

12:50。式が終わり、退場するとそのまま介添えに連れられて今度は親族紹介の部屋へ。両家が一通り紹介し終わると、次は親族写真撮影。三十人からの大集合写真である。前述の従妹の子がちっともおとなしくならず、抱きかかえている従妹が真っ赤になって悪戦苦闘している。頑張ってくれい。親族写真の次は家族写真。次から次へとやることが押し寄せてきて、なんだかベルトコンペアの上の鯉みたいな気分でもうなすがまま。

ふう、と一息つくまもなく今度は披露宴の迎賓のため、披露宴会場入り口に両家そろって並ぶ。せわしないな、全く。カミさん友人連中は揃って写真をとりまくり。ワシ側の客なんてあっさりしたもんである。はいはい、どんどん入っちゃって、入っちゃって(だんだん事務的な気分になってくる)。

13:30。披露宴開始。入り口が開いてピンスポを浴びて一礼をするあたりはさすがに緊張した。そういや始めの挨拶まだ決めてないなあ。誘導係に従ってテーブルの間をすりぬけ高砂へ。60人に注視されるのはなかなかない経験だ。なんだか他人事のようである。・・・でも司会はワシの経歴紹介してるし、やっぱりワシがこの披露宴の(準)主役らしい。高砂の机の影に控えた係りの言うがままに立ったり礼したり。しかし、やっぱり狭い。主賓席なんて目の前だよ。

主賓挨拶。この頁の存在をやら鉄道趣味やら、ああ、そんなことまで云わんでも、と結構動揺したりもするが、もうどうにでもしろ、といった気分。カミさんの主賓は、何度も旧姓を口に出しては一人で訂正してついでに混乱していて、見てて微笑ましかったり。

ケーキカット。BGMは適当に選んだDDRの曲。自分で選曲のダメさに凹む。

乾杯。某氏は本当に緊張している。済まんのう。この礼はガンサスで。BGMはパラッパのラス面。これまた自分で選んでおきながら、違和感に凹む。

歓談がはじまってようやく一息つく。すでに喉カラカラである。さすがに高砂で酔態さらす訳にもいかんので、ウーロン茶。ついでにメシを突付く。なんせフェアの試食のときは食中毒で味わう処じゃなかったし。と思ったが、案の定、主にカミさん側の友人が入れ替わり立ち代わりやってきては写真を取っていく。ついでに、と刺身のツマ並の扱いで写真に写ったりしてるので、全然箸が進まん。メシ喰わせ〜、とかいっていたら、今度はこっち側の友人がビールをひっきりなしに注ぎにくる。最初はバカ正直に干していたが、キリがないので足元のバケツにジャンジャン捨てる。これだけ注目されてはメシどころではない。意外に盛会であることよ。

そのうち、カミさん色直し退場。BGMはFantavision。ワシはあまり気乗りしなかったのだが、本人がコレがいいつーたんだから、しょうがない。ワシの退場BGMはうる星2サントラ。若干名は曲の出典に気付いたようだ。結局、メシは御祝肴しかつつけず。腹減った。

退場後、今朝着替えた小部屋に連れていかれて、これまた10分足らずでモーニングから紋付へ。初めて着たんで知らんかったが、紋付袴の下は下着をギリギリとかなりきつく締めてあって、いやでも姿勢がよくなる。腹が締まって、とてもメシなんぞ喰えそうにない。後から退場したのに余裕で振袖のカミさんより先に着替えが終わってしまう。ふと時計をみると、もう15:00を廻っている。16:30終了だから、押してないか。

押してた。

着替えを済ましたカミさんと写真を撮られて、宴会場に戻る。再入場寸前に披露宴最大の演出、レーザーなんちゃらがある。高砂の壁にモーフィングするベクタースキャンな線画が投影される結構面白い見世物なのだが、肝心のワシら2人は見れないのであった。笑いをとるつもりはなかったのに、客から笑い声が聞こえて2人で悩む。どこで受けたんだ?

悩みつつ再入場。今度はドラジェの夫婦耳掻きを配りながらの入場である。なれない草履が歩きにくいわ、先導の係員から急いでくださいと何度も急かさせるは、そんな事情を知らぬ親戚友人連中は写真だ何だと引きとめてくれるは、もう大変である。狭い会場を高砂まで行くのに30分くらい掛かってしまった。疲れた。テーブルには手付かずの料理が所狭しと並んでいる。

席につくなり、親戚の子供からの花束と友人挨拶。押しているだけあって、予定にくらべて随分と慌しくドタバタと進んでいく。時間が余ったら友人にアポなし挨拶を振る予定だったが、そんな閑は無くなってしまった。チョロチョロと高砂にやってくる親戚や友人の相手をしていたら、宴もたけなわですが、と司会から定番の挨拶が入り、早くも閉会の気配。ありゃあ、もうそんな時間か。カミさんの手紙朗読(書くのに今朝までかかったらしい)が終わったら、両親への花束贈呈。お互い自分の両親に花束を手渡す予定だったのだが、立ち位置の関係と勢いで相手方の父親にパス。これはこれで様になるから、これで善し。

そのまま最後の挨拶である。先に喋った親父にあらかた云いたいことを云われてしまい話すネタがなくなってしまって、しょうがないので適当に即興で話す。まだなにか遣り残したことがあるような感じが残るが、最後の曲、上々颱風の愛よりも青い海が流れ出した。

宴会場の入り口で華を配りつつ、送賓。学芸会の主役みたいなもので、自分達の結婚式や披露宴が皆の目に客観的にどのように映ったかはよく分からないが、全般に受けは良かったようだ。疲れてきたので、名残惜しいもなにもなし。どんどん送り出す。やがて、ぶら下げたカゴの華がなくなり、会場の扉は閉ざされ、中では撤収作業が始まる。

紋付を脱ぎ、今朝着てきたいつもの服に着替える。ふう。紋付はきゅうくつで敵わん。引き出物を下げた客も三々五々散っていく。友人達は呑み直しに、ウチの親戚は東京駅へと慌しく立ち去る。地元が多いカミさん側の親戚もホテルのロビーの喫茶店でちょっと寛いで帰って行った。花で溢れる袋を下げて、ワシとカミさんも撤収する。外はもう暗い。結局、色直し後はメシは何も喰えなかったなあ。2人とも空腹だったので、池袋でささやかに鮨で祝杯をあげる。2人が家にたどりついたのは結局深夜になったからであった。

終わって思う。あれは祭りだ。一生に一度、自分が注目される祭りだ。単なる儀式ではあるが、一度はやってみるものだと思う。式場見学巡りから始まった半年におよぶ準備のすったもんだを思うと、もう2度とやりたくないが。


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