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放浪記
その無軌道な足跡の数々


1999.01.30 忘年会 @ 青森

目覚める。バスの中からでも雪国特有の凛とした静けさが感じられる。やがてバスは青森駅に横付けされた。あたりはまだ暗い。寒い。

予告してあった時間より大幅に早く到着。さすがに夜も明けやらぬ時間に某氏の実家に電話はしづらかったので、とりあえず青森駅の待合室に待避。やがて白々と明けてくる空。小雪舞い散る駅前をうろうろしてサムエルが営業したと思しき場所を探す。結局、寒さに負けてすごすごと待合室に引き篭もり、雑誌をめくって時間をつぶす。そのうち某氏登場。「アンタちょっとは探す努力しなさい」。待合室の真ん前で、バス来ねぇなぁ、としばらく立ち尽くしていたらしい。

某氏から青森市街を案内してもらう。が、そこはそれ、常人が見ても絶対面白くないであろう鉄道遺跡スポットに終始する。という訳で昭和42〜3年に付け替えられた東北本線の跡を辿る。複線化の用地買収の難しさにより市街地を走っていた単線の旧線は廃止となった。現在の複線となった東北本線は街中を一気に通り抜けて街の外れを走っている。3車線ある国道4号の脇を、東北本線の廃線跡は車一台分しかない細い路地となって連なっている。ろくに除雪もされておらず、轍が酷い。「歩くなら止めん」という某氏の申し出を丁重に断り、裏道を延々と車で進む。いかにもなカーブを描く道が続く。しかし、色々な逸話など地元民の案内は有り難い。こういった市街地にある廃線跡は地図を睨めながらでもなかなか上手く辿れないことが多いからだ。廃線跡はいつしか市街地を抜けて某氏曰く青森市と認められない地域へ。廃線跡は国道4号線の拡幅に使われている。途中、国道の山側に使われなくなったトンネルが閉鎖されているのを見つけ、二人してあれこそ東北本線の跡では、とか騒ぐ。調べてみたら、あれは旧4号線のトンネルで、旧東北本線のトンネルは我々が潜り抜けた方であった。浅虫温泉駅付近で旧線跡が新線に合流するあたりで、橋台の跡を発見する。橋台の上まで車を回してちょっと歩いてみる。ちなみにこのあたりは739.2kmの東北本線でたった2個所しかない車窓から海が見える地点である。かつては有名な撮影ポイントだったとか。なんとなく浅虫温泉駅に立ち寄る。昔は浅虫駅であったが、さらに古くは麻蒸。平安時代に麻を温泉の蒸気で蒸したと云われている、らしい。極めて鉄分の濃い青森観光を果たし、青森空港へ向かう。

【久栗坂付近に残る築堤跡】


なんでも地吹雪を体感するツアーがあるというが、北国育ちの私に云わせれば酔狂としか思えん。地吹雪は文字通り地から吹く吹雪。降り積もった雪が強風に吹かれ、吹雪のようになる現象のことである。たかが地べたの雪が舞いあがっただけ、と侮ってはいけない。並みの吹雪よりよっぽど強烈だ。しかし、新雪に曇天に地吹雪に吹き溜まりとそこらへん中真っ白でどこが道やら。路肩を示すポールも埋もれてよく分からん有様。天気の所為で思いのほか時間がかかって青森空港到着。空港の駐車場にはポツリポツリと雪だるまになった車が。駐車してあると除雪の重機が近寄れないので雪が除けられずにさらに雪が積もり積もるという悪循環の結果である。意外にもナイスガイを乗せた飛行機はほとんど遅れず到着。3人揃うと車はなんとなく北上。なんとなく目指すは龍飛岬。ご覧あれが龍飛岬、北の外れよ〜♪。

津軽半島へ突入。蓬田、蟹田と海沿いの吹きっ晒しの道路を進む。そろそろ昼餉どき、腹減ったのう、と騒ぐ。が、青森市を抜けてから道路端には呆れるくらい人気がない。喰い物屋どころかコンビニや商店も全く見当たらない。途中、中小国駅近くの踏み切りから津軽線と津軽海峡線との分岐ポイントを眺める。津軽海峡線はこのポイントを過ぎると突如新幹線並みの立派な高架となって山々を最短距離でぶち抜いて一直線に北海道を目指す。青函トンネルは新幹線規格で作られている。しかし、この大不況の御時世に本当にここを新幹線が通る日が来るのだろうか。やはり寒さに負けて車へ。因みにこの日の青森は最高気温が-2℃の真冬日。車から派手な色をした485系はつかり函館行が無人の雪原を進んでいくのが見える。

【JR東とJR北海道の分岐点 ポイントから右はJR北海道】


それはそうと腹減った、のである。わあわあ騒ぎつつ進むと道の駅がある。幸い食堂があるようなので転がり込む。しかし無闇矢鱈に立派な建物である。そんなに客が来るとも思えん立地条件なのに、税金無駄遣いしとるのう。道の駅の脇には津軽今別駅(JR北海道)と津軽二股駅(JR東)が並んで建っている。JRで違う名前の駅がつながっているのはここだけ。食事を済ますと、一日5往復しかない青森〜三厩列車が通り過ぎて行った。あれ、ワンマンじゃない。

青函トンネルの出口付近にはちょっとした公園があり、列車の窓から手を振る子供なんかが見えたりする、夏ならばだが。辛うじて国道からの道は除雪してあったが、公園の片隅には重機が積み上げた雪の山。無理に線路に近寄れば遭難できそうな深雪である。青函トンネルは旅客車両だけでなく貨物車両もバンバン走っていて、30分に1本は何かの列車がここを通り抜けるはずである。せめて一目、と猛吹雪の中15分ほど立ち尽くすが、結局またもや雪と寒さに負けてそそくさと車の中へ。今は寂れたこのあたりも青函トンネル掘削当時は多くの作業員が住み着いて結構栄えたと云う。

やがて車は海岸線沿いの国道339号線に出る。左手はほとんど垂直にそそり立つ崖、右手はすぐ海である。海岸線沿いに右へ左へと蛇行する道路の僅かな路肩に家がひっそりと並ぶ。どうやって生活しているのだろう、と要らぬ心配。陸奥湾内はまだ風が穏やか、との某氏の解説にはお構いなしの強風が吹き付ける。晴れていればすぐそこに北海道が見えるらしいが、飛沫をあげる荒れた海しか見えない。突然道が果てれば、そこが龍飛である。北の外れは伊達ではない。寒い。

ここで国道339号線は岬にそそり立つ崖の上に続く。国道のくせに階段で続く。もちろん車では登れない。日本で唯一の階段国道である。国道に見えない家々の合間の路地を抜けると、岸壁に張り付いた階段があらわれる。全く除雪されいないのだろうけど、強風に吹き飛ばされて雪はあまり積もっていない。結構な段数があるので素直に引き返して一旦国道339号線を逸れて階段の頂上まで車で進む。この道路ができる以前、岬の西側と東側にあった行き止まりの道を階段で接続して無理矢理一本の道路としたためにこのような奇妙な国道が生まれたらしい。遠くに東北電力の風力発電実験施設の風車が見える。チューヤンいねぇかなあ(納沙布、知多と来たら次は龍飛かと思ったが、能登でした)、とか騒ぎつつ岬の山のてっぺんに辿り着くと、凧が揚がっていた。はて。

【この路地が国道339号】


【階段国道】


しかし、台風のような吹雪である。こんな時期にこんな地の果てまで観光しにくる物好きはいないと見えて、観光施設は予想通り軒並み閉鎖。公衆トイレなんか入り口を釘で打ち付けてある始末。先ほどちらりと見えた凧であるが、ガラガラの駐車場で凧上げ大会の特訓だかのロケハンをしている。物好きな、と我々には云われたくなかろうが。ロケハン終了後、凧を取り込むのに大の大人が数人がかりの大騒ぎをしている。そんな光景を半ば呆れて眺めていたが、とにかく寒い、というより風が痛い。奇跡的に駐車場の隅で土産物屋が営業していたので、そこに逃げ込む。良心的な200円のおでん。旨い。

不老不死温泉といえば艫作が有名であるが、昼食を摂った道の駅の観光案内板によると近くにも同名の温泉があるらしいので、そこを目指して復路は陸奥湾の海岸線沿いに戻る。が、天気は更に荒れてきて本当に視界ゼロ。すぐ前を走っているはずの車のテイルランプすら全く見えない。もちろん道路標識も全く見えず、気がつけば温泉があったらしい地帯を遠く通りすぎていた。



翌朝。今度は山へ。酸ヶ湯温泉を目指す。標高925m青森県八甲田山酸ヶ湯温泉、と少し前のJR東の東北観光PRポスターにもなった有名な湯治場である。途中に八甲田スキー場があるため、道路は混雑しているがそれもスキー場まで。対向車もほとんど無く、いつしか道路の両脇は3mもの雪の壁。非常に良い天気で新雪の照り返しが眩しい。凪いで地吹雪の心配はないのだが、道に張り出した木々から昨夜しこたま降った雪が車めがけてどさどさと落ちてくる。溜まらん。岩木山眺望ポイント、と看板が出ているあたりも雪の壁以外何も見えない。

酸ヶ湯温泉な強力な硫黄泉であった。しばらく体から湯の匂いが取れなかった。

再び青森市街まで戻ってきたがまだしばらく時間があるので、なんとなく青森駅横に繋留されている青函連絡船八甲田丸へ。かつては青森駅から伸びていた連絡通路も中途半端に断ち切られ、連絡船への車両の引込線もすっかり引っぺがされて往時の面影は無い。ある意味、ここも国鉄の廃線である。雪にまみれ氷柱だらけの寒々しい八甲田丸に乗り込む。青函鉄道連絡船記念館、日本で初めての鉄道連絡船ミュージアムと銘打っているが、他には宇高と仁堀しかないって、あ、宮島があるか。内部には青函連絡船にまつわる展示がされている。どうでもいいけど、船傾いてないか。鉄道がらみの展示もなかなか充実している。JRのマルスから発券された乗船券。レアだ。車両甲板にはおそらく二度と外に出ることの無いDD16やとうに廃止された郵便車なんかが鎮座している。48両も搭載できたというから小さい駅ならすっぽり入ってしまうスケール。さすが全長100m級の船である。巨大建造物は男のロマーン。ま、しかし、なんだ、第三セクタらしい商売気のなさであった。貸し切りだもの。

【八甲田丸】


おまけ
車から降りるときは忘れ物に注意しよう。


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