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放浪記
その無軌道な足跡の数々


1997.11.23 碓氷峠

11月22日夜、沼田氏から電話。
沼:「あした碓氷峠歩かん?」
粟:「ふぇい、行きましょう」(原文のまま)
かくして翌日我々は碓氷峠を歩くことになった。

あさまでとりあえず信州そばを喰うべく長野をめざす。デッキにはスキー置き場なんかがあっていかにもだったが、あさまの車内は意外と狭い。まるで在来線の特急のような雰囲気。かつてはEF63をぞろぞろ繋げて上った碓氷峠は大部分がトンネルで、峠を越えた感覚が全くない。高崎を出たと思ったら大して減速もしないまま間もなく軽井沢に到着。近くなったものである。軽井沢を出たと思えばもう長野。これでは車内で峠の釜飯を喰う閑もない。

長野駅駅舎はすっかりモダンに変わっていた。違和感ありまくりである。古い駅舎の方が味があったと思うのだが。さて、蕎麦を求めて駅前をうろうろするがどこの蕎麦屋も開いていない。時間がはやすぎるようだ。結局店を探すのが面倒になってきてホームの立喰いで済まして、こちらも出来たばかりのしなの鉄道で軽井沢を目指す。

軽井沢駅も瀟洒な駅舎になっていた。昼時になったので峠の釜飯を買って駅待合室で喰う。あとは駅前の国道18号をひたすら降りるだけである。出発12:40。

列車で何度も通過した感じでは軽井沢駅のすぐ東側が千尋の谷だと思っていたが、しばらくは平坦な道が続く。人気のなくなったあたりまで行くと夜間通行規制のゲートがあり、その向こうに突然深い山々が広がる。横川駅は15kmの彼方、500mの眼下にあるはずであるが見えるはずもなく、二人して少々後悔するが、潔く歩き始める。まもなくカーブ番号の標識が目に付く。横川側から順に碓氷峠のカーブに番号が振ってあり、これが歩いた距離の目安になる。軽井沢側の番号は184。多い。

【碓氷峠から横川方面を望む】


信越本線は新線、旧線とも軽井沢をでると一気にトンネルで高度をさげるため、しばらくは18号線の遥か下方に見え隠れする程度。碓氷峠越えの国道は峠の北側にある子持山の山肌にへばりついた西から東へ向かう道であるので、下るときは常に右側に谷を見ながら歩くことになる。目印の少ない山の中であるので、尾根を越えても越えても前と同じ風景に見え、進んでいる気がしなくなってくる。デジャブというやつだ。歩き始めて1時間。カーブ番号はやっと120まで減った。

さらに1時間ほど歩く。はやくも西日の気配がしてきた頃、ようやく中間地点にあたる熊ノ平信号所跡に到着。一息いれる。つい最近まで現役だっただけあって、線路の上を歩くのが憚られるが、もちろん近くの詰所は無人。レールには早くも錆がういていて、ここがすでに棄てられた場所であるのが実感される。ここを列車が走ることはもう二度とない。向こうに見えるトンネルの出口には鉄条網が張られており、入ることはできなかった。

【熊ノ平信号所のホーム跡】


信号所の変電施設(上の写真右)はこのあとしばらく見え続ける。道が回り込んでいるらしく、何回も真正面にあるようにみえて、同じところをグルグル廻っているような錯覚にとらわれる。このあたりを過ぎると旧線跡のレンガ造りの橋梁が道路のすぐそばに見えてくる。こちらはトンネルにはバラ線が張られていないので実際に通ることも出来る。近くと云っても道路よりかなり高いところにあるので、旧線跡に出るのも一苦労、と云うか滑り落ちたら只ではすまない高さだ。ともかく、第6橋梁の端から這い上がってしばらく路盤を歩く。廃止後30年たったとは思えないしっかりした道床で、レールを引きさえすれば立派に営業ができそうである。嵯峨野線みたいにトロッコでも走らせれば客が呼べるよなぁと思ったが、コストが嵩みすぎるか。そもそもJR東はそういった遊び的な列車はあまり走らせんから期待してもしょうがないかも知れない。などと二人でぐだぐだしゃべりつつトンネルを2つほど越えてから、急斜面を木にぶら下がり、落ち葉でずるずる斜面を滑り、スッコろんでジーパンに泥をつけながら、なんとか国道に戻る。路盤の状態をみると、このまま横川まで歩いてもいいかもしれない。

【国道より第4橋梁を この左端を下りてきた】


もう少し進むと重要文化財の第3橋梁である。すっかり観光名所化していて、車が何台も止まり、橋を見上げて写真など撮っている。我々はすでに旧線跡を堪能していたので人込みをさけて、先を急ぐことにする。残るカーブは50。

【第3橋梁を下から】


だんだん道路のカーブがゆるやかになってくる。道路の上方にあった旧線跡はいつしか道路をくぐり反対側の下の方を走っている。カーブ番号が1桁になるころついに人里にたどり着く。カーブ5番あたりから旧線跡が新線に合流するのが見える。そしてカーブの1番。こうして3時間に及ぶ物好きな碓氷峠踏破は終わった。かに見えた。カーブの1番から横川駅まではさらに4kmあるではないか。1時間後、横川駅前おぎのや本店で本日2つ目の釜飯を喰い終わるころにはすでにあたりは暗くなっていたのであった。

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