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放浪記
その無軌道な足跡の数々


1997.08.13 生保内林用手押軌道跡
実家の近くの抱返り渓谷の遊歩道が、元は生保内林用手押軌道の軌道跡だとは最近まで全く知らなかった。抱返りとは、抱き合わないとすれ違うこともできないほどの難所ということからついた地名であり、とてもレールが走っていたとは信じ難い場所である。実家から車で小一時間の場所なので、盆で帰省したついでに訪れてみた。
父曰く「30年も前に廃止なったんだからレールとかが残ってる訳ないだろ」

生保内林用手押軌道は材木を運ぶために夏瀬温泉の奥から国鉄田沢湖線神代駅を結んでいた軌道。昭和38年廃止。材木を積んだ台車が渓谷にへばりついた細い軌道を滑り降りてきては、神代駅に材木をおろし、台車は牛に牽かれて軌道を登って帰っていたという。ちょっと待て、夏瀬温泉側に牛が溜まるぞ。

とりあえず神代駅を目指すが、地元のくせに上手くたどり着けない。新幹線こまちはもとより、かつての特急たざわも止まらなかった小さい無人駅で、駅前がにぎやかでない。国道から駅へと分かれる道は狭く、民家につながる私道にしか見えない。それと気付かず素通りし、そんなこんなで駅を1周してからようやく神代駅に辿り着く。駅のホームから反対側に軌道跡の農道が見える。

【神代駅上りホームから】


少し進むと軌道跡の農道は舗装道路となり、神代水力発電所、その奥の抱返り神社まで続く。ここまでは車で行ける。ちょいと一拝みしてから、歩きで軌道をなぞる。・・・なんか途中で何回か軌道が直角に曲がってるぞ。おまけに吊り橋もある。ホントに軌道跡か。

吊り橋を越えるといかにも森林軌道跡らしい険しい遊歩道が始まる。辺りは頭上に覆いかかぶらんばかりの断崖、遥か下に見える青い玉川の流れ、素堀りのトンネル、といった様子なので遊歩道というより登山道といった雰囲気だ。

【誓願寺付近にて】


誓願寺と云っても境内がある訳ではない。眼下に流れる渓流の見所にいろいろと凝った名前がつけられていて、その一つ。急流の飛沫が御香のように見えたとのこと(と、案内板に書いてある)。遊歩道は全長6kmほどあるのだが、普通は2kmほどの地点の遊歩道最大の見所である回顧ノ滝で折り返すようだ。そこからは遊歩道の状態が一気に悪くなり、まるで獣道のよう。奥まで歩く物好きもほとんど居ない。物好きとは私みたいなのを云うのだけど。

【回顧ノ滝】


回顧ノ滝はなかなか豪快な滝である。写真であるが、これで一部。足場が狭くてこれ以上遠くからは撮れなかったので、どうしても全景をフレームに収めることはできなかった。

さて、肝心の鉄道の遺構であるが、元が森林鉄道で遊歩道に転用されて30年では目立ったものはほとんど残っていなかった。ガーター橋が一番鉄道っぽいような。とはいえレールの1本くらいは見たいので、さらに回顧ノ滝の奥まで進む。人気は全くない。進むこと10分でようやくレールを発見。探せばあるものだ。

【朽ちたレール】


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